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忙しい年の瀬の話題に、機械翻訳もうっかりミス

星夜のもとで子ども達の笑顔きらめくクリスマスシーズン。けれどヨーロッパの一部ではサンタに加え、悪い子をムチで打って性根をたたき直す恐ろしい怪物もやってくるという言い伝えがあります。

サンタとタッグでやってくる、その名も怪物クランプス。クランプスについて書かれたことを訳してみた今回の訳文、クランプスのムチが唸りそうなできばえです。

今回の原文は、ナショナルジオグラフィックの記事からの引用です。

Bad Santa, meet Krampus: a half-goat, half-demon, horrific beast who literally beats people into being nice and not naughty.

これはヨーロッパに伝わるクランプスの伝説についての記事の抜粋です。クランプスとは、ヤギのような角を頭に生やし、悪魔のような恐ろしい形相をした怪物のこと。ドイツのバイエルン州やオーストリア、ハンガリー、ルーマニアなどの地域にクランプスの伝説が伝わっています。

伝説によればクランプスはクリスマスシーズンにサンタクロース(聖ニコラウス)と共にやってきて、悪い子を見つけてはその恐ろしい顔とムチで脅し、よい子になるよう言い聞かせるとのこと。ヨーロッパ版のなまはげと言えばわかりやすいでしょうか。

ドイツなどでは伝説にのっとり、クリスマスシーズンにクランプスに扮した人々が街頭を練り歩く行事が行われているもよう。

日本でも2015年からクランプス・ジャパンの主催によるクランプスパレードが毎年12月に開催されています。2017年のパレードはもう終わってしまいましたが、2018年以降、機会があれば足を運んでみてはいかがでしょう。

それでは、訳文を見てみましょう。

Google翻訳

悪いサンタ、Krampusを満たしています:ハーフヤギ、半悪魔、文字通り人を打ちのめしていたずらではない恐ろしい獣。

エキサイト翻訳の訳文

悪いサンタ、会Krampus:文字どおりに人々を腕白であることではなく、良いことに打ち延ばす0.5ヤギ、0.5デーモン、恐ろしい獣。

Meet Krampus

出だしの訳はシンプルながらくせ者です。名詞が「Bad Santa」と「Krampus」の2種類で、どちらの訳を見ても「Bad Santa」で一度区切りって訳しています。どうやら主語は「Bad Santa」、目的語は「Krampus」のよう(エキサイト翻訳はどう解釈していいかわかりませんが……)。

ここの「Bad Santa」はクランプスを指していると考えていいでしょう。

クランプスはクリスマスシーズンにサンタクロースとセットでやってきます。よい子にプレゼントを配るサンタはもちろんよいサンタ、ならばと、それと対になるクランプスを悪いサンタと言い表したのでしょう。

では「meet Krampus」とは? 「Bad Santa」とはクランプスのことを指すので主語にはなりえず、「悪いサンタがクランプスと出会う」という訳文は無理があります。「Bad Santa」はクランプスが何者なのかを補足する形容詞句という点、そして特に倒置法を使っている様子がないことから、この部分は「Meet Krampus which is Bad Santa」と書き換えられるでしょう。

「Meet」の訳が悩ましいところですが、さっきのように書き換えた場合、命令形になります。すると、会いに行こう、見に行こう、というぐらいの意味合いになると思われます。つまりここで言われているのは、クランプスと私たちが出会う、クランプスが私たちのところにやってくるということ。

そう考えるならば、ここは「悪いサンタ、クランプスがやってくる」とすれば自然になるでしょうか。

2つある「half」の訳

原文には「half」という単語が2回登場し、Google翻訳とエキサイト翻訳とでかなり訳し方が違ってきます。

まずはエキサイト翻訳の文を見てみましょう。こちらは両方とも「0.5」という数字で訳してあります。数学や物理学に関連する文章で、分量や数量を表すための「half」である場合ならこれが正解になる場合もあるでしょう。ただ惜しむらくは、続く言葉がヤギと悪魔であるという点。この場合はGoogle翻訳のように「ハーフヤギ」や「半悪魔」と、数字でなく言葉で表現した方がいいでしょう。

とはいえ、Google翻訳もそれなりの問題があります。どうして同じ「half」という言葉に「ハーフ」と「半」という別々の訳語を当てはめたのか?

原文の「half-goat, half-demon」という部分は、ヤギと悪魔を組み合わせたようなクランプスの特徴を説明しています。すると、「goat」と「demon」は同一の対象、つまりクランプスという対象の中に含まれるもののはず。どちらも同じものの一部であるのなら、同じものを指していることを表すために、「半分ヤギ、半分悪魔の」という風に「half」の訳語を統一した方がいいのではないかと思います。

Google翻訳が「ハーフ」と「半」の訳語を分けた理由としては、「half-goat」と「half-demon」がそれぞれ別個のものを表していたと解釈したのではないか、という仮説が挙げられます。つまり、「ハーフのヤギ」と「半分だけ悪魔のなにものか」がそれぞれ個別に存在し、かつクランプスとは関係ないものであると認識してこのように訳したのではないか、ということです。

あくまでも推測なので、真偽のほどはわかりません。おそらくGoogleの中の人にもいまひとつわからないのでしょう。ただわかることは、ヤギと羊のハーフが実在し、両者の名前(GoatとSheep)を組み合わせて「Geep(ギープ)」と呼ばれていることだけです。

Beat people into being nice

「beat ~ into …」とは、「…を叩いて(ムチで打って)~にする」という意味の用法です。鉄を叩いて打ち延ばすなどモノに対して使うこともあれば、人をむち打って何かをさせる、という用法でも使われます。

興味深いことに、Google翻訳の訳文からはこの意味が抜け落ちています。原文の「beat people into being nice and not naughty」という部分は、「人々(この場合は子ども達)をムチで打って(beat people)、悪い子でなく(not naughty)、よい子にする(into being nice)」という意味合いになります。Google翻訳の訳文にある「いたずらではない」は「not naughty」の訳語なのでしょうが、「into being nice」の部分がありません。

実はGoogle翻訳の訳文は、単語や文節が抜け落ちる場合がたまにあるのです。長文をGoogle翻訳にかけると一文まるごと行方不明、なんてこともまれに起こるのです。翻訳をする上で、多少の省略が問題にならない場合もあるにはあります。ただ、気をつけないと誤訳に気づかない場合があるので、可能な限りGoogle翻訳の訳文は原文と突き合わせてチェックするのがよいでしょう。

ちなみに、エキサイト翻訳は言い回しこそ珍妙ながらこの部分のニュアンスは保っています。「beat」を「打ち延ばす」と訳しており、あたかも熱い鉄を叩くような表現になってしまっていますが、訳抜けがないということでGoogle翻訳から一本取ったといえるでしょう。

ここまでを踏まえて、この原文を人間が訳してみるとしたら、一例としてこのような訳が挙げられるでしょう。

悪のサンタ、クランプスがやってくる。ヤギと悪魔を合わせたような身の毛もよだつ怪物が、悪い子を懲らしめにムチを振るう。

師走というだけあって年の瀬はドタバタするもの。その中で、クリスマスやクランプスパレードなどイベントも楽しもうと思えば、その慌ただしさもひとしおでしょう。
そんなタイミングにこそ、今回のGoogle翻訳の訳抜けのように、ミスやしくじりが出るものです。念のためチェックしておく、という姿勢こそ、機械翻訳との付き合い方でも実生活でも大事にするべきなのかもしれませんね。

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