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機械翻訳が常識を知るにはどうすれば?

明るく楽しいサンタの話をしている時に、わざわざ人殺しの話はしない。ごく常識的な振る舞いに思えます。

ただどうも、機械翻訳にはこの常識が備わっていない様子。それでもいつかは、人間と同じように、常識らしいものを身につけてくれると信じています。

今回取り扱う原文は、Wired誌からの抜粋です

The best Santas take the role seriously. They bulk up. They exude jolliness. And they sport killer beards.

この記事は、世界各地からプロを含めた1,000人以上の「サンタクロース」が集まった「DiscoverSanta2016」というイベントについての記事。プロのサンタとは、クリスマスシーズンのパーティーに行って場を盛り上げるといういわばエンターテイナー。人々を楽しませ、子どもたちに夢を与えるという使命を帯びた素晴らしい仕事です。

Google翻訳とエキサイト翻訳の訳文は以下の通り

Google翻訳

最高のサンタは真剣にその役割を果たします。 彼らは一括して。 彼らは快楽を滲出させる。 そして、彼らはキラーひげを飼います。

エキサイト翻訳

最もよいサンタは役割をひどく取る。それらは上に大きくなっている。それらは陽気さを発散する。そして、彼らは殺人者あごひげを見せびらかす。

訳文が出揃ったところで、それぞれポイントを見ていきましょう。

bulk up

この訳は「一括して」「上に大きくなっている」という、どうもわかりづらい訳語になっています。ここの部分は「bulk」と「up」で意味が切られているもので、本来ならば筋肉をつけて体を大きくするという「bulk up」の成句で訳されるべき箇所です。

「bulk」という単語だけだと、「一括する」や「かさばる、塊になる」という動詞の意味があります。Google翻訳は前者の意味で訳したのでしょう。

一方のエキサイト翻訳は後者の意味を広い、「up」の意味を混ぜ込んだのでしょう。この一文が言い表しているのは「(サンタに似つかわしいよう)体をつくる」というぐらいの意味。「bulk up」の成句を無視しているので、どちらの訳も意味不明になっています。

Killer beard

「killer」は「殺人者」の意味で使われる場合がほとんどですが、口語表現として「すごい、立派な」という意味もあります。正直なところを言うと、今回調べるまでこんな意味があったことを知りませんでした。まさか殺人ヒゲなんて、と思って調べてみると、案の定別の意味があったのです。

なぜここで「killer」に「殺人者」以外の意味があるのではないかと思ったのか、考えてみれば不思議です。自分にわかる範疇の情報で訳文を作り、それをおかしいと直感した際に、何をもっておかしいと直感したのか?

これは突き詰めればパターン認識の問題に行き当たるように思えます。要は、これまで「ヒゲ」と「殺人者」が続くようなパターンの文章に出会ったためしがほとんどなく、そのため「殺人者ヒゲ」のような言葉の並びが記憶にあるパターンと一致しないため、おかしいと感じたのではないでしょうか。

「キラー口ひげ」のような単語が現れること自体はなくもないことです。映画には人を食う「キラートマト」だの、ナニを食いちぎる「キラーコンドーム」だのが出てきます。

可能性だけを考えれば「殺人鬼」とも「立派な」とも決めがたい、そこでどちらが正しいらしいか判断する決め手は、結局自分の記憶にあるパターンと照らし合わせ、ある組み合わせがどの程度ありうるだろうかという計算であるように思います。

サンタのひげの話をしていて、そこから急に殺人者の話に飛ぶのは常識的に考えて異様な文章の構成でしょう。常識的にそう思える、ということは、少なくともその常識を疑うことがない程度には頻繁にその通りのパターンが見られるということ。パターンの学習は今や機械学習で行えるので、AIを活用しさえすれば、機械翻訳にも常識を教え込むことができるのではないでしょうか。

Sport

こちらも慣れ親しんだ意味とは違う意味が実はあったという一例。「スポーツ」という名詞として使われることが多い単語ですが、動詞としては「着る、見せびらかす」あるいは自動詞として「元気良く遊ぶ」という意味もあります。

エキサイト翻訳の訳語は及第点でしょうか。ヒゲはサンタのトレードマーク。なのでただ「ヒゲを生やす」よりは、「見せつける」としたほうがいかにも真剣にサンタをやっているという迫力が出ていいように思えます。

謎なのはGoogle翻訳の「飼う」という訳語。調べてもこのような意味は出てはこず、一体どこから出てきたのかわかりません。

思い当たる線としては、「見せびらかす」からの連想。動物を飼うという行為が何かしらのアピールにつながっていると(実際のところどうなのかはさておき)判断し、そこから「見せびらかす」の連想につながったのでは――というのが筆者に想像できる限界です。

わけのわからない訳語が飛び出すことは、Google翻訳ではたまにあることです。そこに理由や意味を求めるのはきっとナンセンスなのでしょう。しかし機械のふるまいを見ることをきっかけに、人間がどう言葉を理解しているか、どう文章を読んでいるのか、そこに改めて意識を向けてみることは、なかなかおもしろいことではないでしょうか。

それを意識した上で、人間があえて訳してみる。できた文章は斯くの如く。

立派なサンタは心構えが違う。サンタらしい体をつくり、楽しい雰囲気を振りまいて、見事なヒゲをこれでもかとばかりたくわえる。

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