ハリウッド版ゴジラ、インド版ハットリくんなど、場所が変わって制作された創作物にはどれがどこで作られたか、誰が作ったかわかりやすくなるよう、便宜的に「~版」と呼ばれることがあります。
この「~版」という言い方、英語で言えば「counterpart」。
かなかややこしいこの概念、機械翻訳はどう読み取るのでしょう。
今回の原文は「ゴガクル」より、こちらの一文。
Corporate concierges perform duties similar to their hotel counterparts, but their job responsibilities are often much broader.
ゴガクルの英文にはすべて対訳がついてきます。上記のリンクから出典元のページに飛べるので、チェックしてみてください。
Google翻訳とエキサイト翻訳の訳文は以下の通り。
Google翻訳
コーポレートコンシェルジュは、ホテルのカウンターパートと同様の職務を遂行しますが、仕事の責任はしばしばはるかに広範囲です。
エキサイト翻訳
企業のコンシエルジュはそれらのホテル対応するものと同様な義務を実行するけれども、それらの仕事責任はしばしばずっと広い。
どちらも訳文は似通っていますね。それでは、今回の訳のポイントを見ていきましょう。
counterparts
Google翻訳は「カウンターパート」、エキサイト翻訳では「対応するもの」という訳語を当てています。この「counterpart」という単語、実は翻訳しようと思えば一筋縄でいかない言葉です。
単語自体の意味はエキサイト翻訳の訳文に近い、「対応するもの、同等のもの」という意味です。詳しく言うと、それまでの文中に出てきた名詞に対応し、「同じものではないが性質や機能が似通っているもの」を指し示す時に使う単語なのです。
とてもわかりにくいので例を出してみましょう。フランスとイギリスの首相が会談している様子をイメージしてください。国こそ違えど二人とも首相で、その職務や権限も似通っています。このようなシチュエーションこそ「counterpart」の出番です。
「フランスの首相がイギリスの首相と会った」という文章を英訳する場合、主語となる「フランスの首相」はそのまま「the prime minister of France」となります。「イギリスの首相」も本来ならば「the prime minister of UK」となるのですが、これでは「prime minister」が繰り返されてしまいます。英語は繰り返しを避ける傾向にあるので、これはよろしくない。なので「British counterpart」という表記で「イギリスの首相」を表現し、「The prime minister of France met the British counterpart」となります。「counterpart」という言葉に、文頭で出た「prime minister」という言葉が代入されるようなイメージです。
「counterpart」という言葉は、それまでに出てきたどの言葉に対応するかで意味ががらりと変わってきます。今回の原文の場合、「counterpart」は「コンシェルジュ」に対応しているため、「ホテルのコンシェルジュ」と訳すとわかりやすくなるでしょう。
Often
これはどちらも「しばしば」と訳されています。英文を和訳した文章ではよく出てくる言い方なので、読めば意味はわかるのですが、かといってこればかり使っているのも芸がない話です。
「often」という単語を「しばしば」という言葉とシンプルに結びつけるのではなく、「頻度が高いさまを表す概念である」と捉えてみましょう。よく、しょっちゅう、めっぽう多い、よくあることだ、~の場合が多い――など、いろいろな表現のしかたがあることに気づきませんか?
このように多様な表現の中から候補を選ぶと、訳文の構造からがらりと変わることもあります。「多くのコーポレートコンシェルジュはより幅広い職責を負う」という風に、頻度ではなくコーポレートコンシェルジュの数にフォーカスした表現に書き換えられますし、「より幅広い職責を負う場合が多い」というようにも書けるでしょう。
今回出てきた「counterpart」という言葉には、別の言葉を代入する数学的記号のような側面があります。なので、ただ字義だけを追ったならば訳が不自然になることも。
言葉同士の前後関係をよく読み取り、何を代入しうるのかに注意を払う必要があります。この点でまだ現在の機械翻訳は弱みを抱えていると言えるでしょう。
コツさえわかれば人間には比較的簡単にできる「counterpart」の訳。機械翻訳がみごとにこなしてみせるのは、いつの日になるのでしょう。