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為政者はどう転んでも「よいもの」?老荘思想を読む機械翻訳

中国古典は少しずつでも読んでみるとおもしろいものですが、私は中国語が読めません。なので日本語訳を頼る必要があるのですが、英語圏の人も状況は同じはず。

中国古典はどのような英訳文になるか?それを機械翻訳にかけると何が出てくるか?

『老子』を片手に、たいへん奇妙な読書をやってみました。

今回の原文は『老子』第十七章より、よき君主のありようについて語った一節です。出典はWikiquoteより

A leader is best when people barely know that he exists, not so good when people obey and acclaim him, worst when they despise him. Fail to honor people, They fail to honor you. But of a good leader, who talks little, when his work is done, his aims fulfilled, they will all say, “We did this ourselves.”

Google翻訳の訳文はこちら

リーダーは、人々が彼が存在することをほとんど気づかずに、人が彼に従うとそれほど良くなく、最悪の場合には彼を軽蔑するときには、最高です。 人々を敬うことができず、あなたを尊敬することができません。 しかし、彼の仕事が終わったとき、彼の目標が達成されたとき、少し話す良いリーダーの、彼らはすべて “私たちはこれを自分でした”と言うでしょう。

今回は原文の原文が存在する、いわゆる重訳です。こちらのサイトを参考に、中国語原文の書き下し文を掲載しておきましょう。

太上(たいじょう)は下(しも)これ有るを知るのみ。

その次は親しみてこれを譽(ほ)む。その次はこれを畏(おそ)る。その次はこれを侮る。

信足らざれば、焉(すなわ)ち信ざられざること有り。

悠(ゆう)としてそれ言を貴(おも)くすれば、功は成り事は遂(と)げられて、百姓(ひゃくせい)は皆我自ら然(な)りと謂(い)う。

今回はややこしいことをしていますが、Google翻訳の作った訳文はどうなったでしょうか?

以下から気になった点を見ていきましょう。

Fail to honor people

ここの一文は「~できず、○○できない」という形になっています。言いたいことはなんとなくわかりますが、どうも不自然。もっといい書き方はないでしょうか。

ズルのようですが、『老子』の原文の書き下し文に当たってみましょう。ここは「信足らざれば、焉(すなわ)ち信ざられざること有り」となっています。形式がかなり違うことに注目してください。

この原文をもとにGoogle翻訳が作った訳文は、ただ2つのことができない、と述べるにとどまっていますが、原文では「~ならば○○だ」という条件文の形になっています。言わんとすることは条件文なのに、英語の文章が接続詞を使わずコンマだけで区切るという変わったつなぎ方をしているためか、そのニュアンスを読み取れなかったようです。

英文を「if」で書き出してあればきっと問題なく翻訳できたのでしょう。この英文は少し変則的な書き方をしているため、少し深く掘り下げて言わんとすることを拾い上げる必要があります。

who talks little

ここの訳は「少し話す」となっていますが、改善の余地ありです。

形容詞の「little」に「a」がつかない場合は「あまり~しない」というように、回数や程度が少ないことが強調されています。この慣例に従うならば、焦点を当てるべきは話すことではなく、言葉を発する頻度が少ないこと。なので、「多く語らない」あるいは「言葉の少ない」というように訳語をひとひねりするのがいいでしょう。

書き下し文ではこの箇所は「言を貴ぶ」となっています。言葉を貴いものとして扱う、つまりはみだりに言葉を発しないものだ、ということを言い表しているのがわかりますね。

「best」の位置

訳文の最初の文の最後にある「最高です」に注目してください。これはおそらく「a leader is best~」の「best」を訳したものなのでしょう。しかし、ここの訳文には問題があります。

この文章は本来、想定される君主の姿を列挙し、その中でどれが一番いいか、その次がどれで、一番悪いのはどれか、という序列づけをしている文章です。

文中には「best」、「not so good」、「worst」という良し悪しを表す言葉が出てきますが、これはどれも君主への評価を表す形容詞で、主語は最初に出てくる「a leader」となります。ここでは文中の「when」を区切りとして、「君主がAのときはよし、Bのときはふつう、Cのときは悪い」というような場合分けがなされており、これらの形容詞は直後に出てくる「when」以下の文節が表す場合の評価に対応しているのです。

Google翻訳の訳文はここの解釈が異なります。

最初に出てきた「best」が「when people barely know that he exists(民が君主の存在をあまり気にかけていない場合)」にかかっているのではなく、文章全体にかかっているような書き方になっているのです。つまり、考えられる君主のあり方は3種類あり、それぞれの説明を列挙した上で、場合に関わらず君主は最高である、というような書き方。そのために上述したような場合分けがうまくできておらず、不自然な文節のつながりになってしまっています。

今回は原文が中国語からの翻訳なので、Google翻訳の作った訳文は重訳となります。英文の段階ですでに翻訳文なので、人によって文章にばらつきがあり、それぞれに含められた意味にもわずかずつですがばらつきがあることでしょう。

そうなると、機械翻訳にかけた時、どれほど原文の意味を再現できるかにもばらつきがあるはず。機械翻訳やそれに類した装置を使い、複数の翻訳文を簡単に比較できるようなシステムができれば便利に思えます。

だれかが作ってくれれば作業が楽になるのではないかと思うのですが、このような姿勢を、老子なら怠惰だと非難したのでしょうか?

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