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「コロン」の記号の意味、どう書き直せば機械翻訳は読み取ってくれる?

変化の激しい時代と言われる昨今。しかし60年ほど前に行われたケネディ大統領の大統領候補指名受託演説では変化と未来が強調されており、いつの時代にもそれなりの変化を人々が感じ取っていたことがうかがえます。

翻訳のやり方も変わりつつあります。今後重要性を増していくだろう機械翻訳は、変化について語る文章をどう読み取るのでしょう?

今回の原文は、1960年に行われたケネディ大統領の大統領候補指名受託演説の一節です。

As Winston Churchill said on taking office some twenty years ago: if we open a quarrel between the present and the past, we shall be in danger of losing the future. Today our concern must be with that future. For the world is changing. The old era is ending. The old ways will not do.

当時のアメリカは冷戦下でしのぎを削っていたソビエト連邦に技術力や経済の面で後れを取っており、新たな大統領にはその閉塞感を打破して平和と繁栄を維持することが求められていました。

選挙当時43歳の若手だったケネディはメディアを積極的に活用し、未来に向けて開拓すべきニュー・フロンティアがあると国民に呼びかけました。アメリカの停滞を打ち破る彼の力強い言葉は国民をひとつにまとめ、大統領に当選したケネディはアポロ計画の推進や社会保障の拡大などを通じて新たな時代を切り開きました。

その鏑矢となったのは、この指名受託演説。Google翻訳の訳は以下の通り。

ウィンストン・チャーチルが約20年前に就任したと言ったように、現在と過去の間に争いを開くと、未来を失う恐れがあります。 今日、私たちの関心はその未来にあるはずです。 世界は変化しています。 古い時代は終わりです。 古い方法はしません。

では、訳のポイントを見ていきましょう。

1文目の訳

「ウィンストン・チャーチル~恐れがあります」の訳は、ぱっと見で整った文のように見えますが細かい点が怪しい訳文です。「20年前に就任した」というのがチャーチルの発言のように読み取れてしまいますし、チャーチルの発言と現在、過去、未来の話がしっくりとつながりません。

この原因は、原文の構造の解釈を取り違えていることです。これは大まかに2つのポイントで説明できるので、ひとつずつ見ていきましょう。

まずは「on taking office」の解釈。「take office」は「役職に就いた、政権を握った」という意味となり、この演説ではチャーチルが1940年頃イギリス首相に就任したことを指しています

さて、「on doing~」という表現は「~すると同時に」という意味になります。ちょうど「as soon as~」や「immediately after~」などのタイミングを表す表現なのですが、訳文にはこのニュアンスが現れていません。その代わり訳文では、就任したことを言った、という、「say that」のようなニュアンスが現れています。もしかすると「say on / taking office」で文章を区切った結果、「on」は意味を成さないために「that」で補完し、「就任したと言った」と訳されたのかもしれません。

では、「on doing~」の意味を含めて訳文を書き換えるとどうなるでしょう? 動詞は「say」と「take office」の2つあり、いずれも主語はチャーチルです。「take office」してすぐに「say」したのだから、「政権を取った」という部分を先に書いた方が自然でしょう。

ということで前半部は「約20年前、ウィンストン・チャーチルが政権を取ってまもなく発言した」となります

もう一つ解釈のポイントとなるのは、コロン(:)以降の文の扱いです。コロンはあまり見かけない記号ですがそれもそのはず、一度文を区切りたいけど前後の意味のつながりを強調したい、という微妙にニッチな需要を満たすための記号なのです

なのでこの文は、チャーチルが政権を取って何か発言したと語った時点で一度終了しているのです。でもピリオドでなくコロンを使うことで、「if we open~losing the future」の箇所と文を区切るには惜しいほどの関係性をもつということが暗に示されています

では前後の関係性はどのようなものか? これは最初の文の文頭にある「As Winston Churchill said」から推測できます。

この箇所を直接に訳せば「ウィンストン・チャーチルが言ったように」となるのですが、じゃあ何を言ったのか、という点は直接示されてはいません。この文では「said that~」など直接的に語るのを避け、コロン以降の文を発言内容として提示する方法を取っているのです

すると正確な解釈のしかたが見えてきます。まずは約20年前にチャーチルが首相に就任したという情報を提示。次に、それと時を同じくしてチャーチルがある発言を行ったことを語ります。最後にその発言内容を提示してできあがり。

語順が多少変則的になっているため、Google翻訳にはこの関係性を読み取れなかったものと思われます。もう少しベーシックな形式、例えば「On taking office some twenty years ago, Winston Churchill said: if we open a quarrel between the present and the past, we shall be in danger of losing the future.」のように原文を書き換えれば、正確な構文の訳が出てきます。

The old ways will not do

「古い方法はしません」という物足りない訳文になっているこの箇所。「do」の意味をうまく補ってあげることが重要です。

「do」は状況に応じていろいろな日本語を当てはめうる言葉です。十把一絡げに「する」と訳しただけでは、文章がうまくつながらない場合があるのです。この文の場合、補うべき言葉は何でしょうか?

英語には「make do with~(~で間に合わせる、やりくりする)」という表現があり、これは「do」を「する」と訳するだけでは対応できない一例です。これは「間に合わせのもので対処する」と言い換えられるので、それを参考に、例えば「今後も古い方法で間に合わせることはできない」あるいは「古い方法ではもう対応できない」「古い方法はもう通用しない」などの表現が考えられます。

新しいものもやがては古くなり、さらに新しいものに置き換えられていくもの。

コンマの使いどころは難しいものですが、大体のパターンを押さえればどう訳すべきかが見えてきます。そしてパターン化でどうにかなるのであれば、それは機械翻訳の本領でもあるということ。

今日はあたらしいこの記事も、いつかは歴史の塵の中に埋もれてしまうのでしょうか。

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