Loading...

なぜ人間には「エミ」が女性の名前だとわかるのか

女の子に「太郎」と名前をつけることは、私たちの常識に反します。反対に、太郎という名前を聞いてその主が女性だと判断することもまた常識に反します。

Google翻訳にこの常識はありません。だからこそ機械は人間に勝てないのだ、という意見もありますが、そう説くまえに、人間の常識がどう形成されるのかを考える必要があるように思います。

今回の原文はゴガクルより、以下の文章

エミは両親のことを愛していましたが、両親からのひっきりなしの電話が大きな頭痛のたねでした。

これをGoogle翻訳にかけたのが以下の訳文。

Emi loved his parents, but the long-awaited call from my parents was a big headache.

一見短い文章ながら、なかなか興味深い課題が見え隠れするものです。以下から訳文のポイントを見ていきましょう。

エミを指す代名詞

まず気になるのが「his parents」の部分。「エミ」は女性だと思われるのですが、ここの代名詞は男性を指し示す「his」になってしまっています。「エミ」を女性だとすると、本来なら「her parents」となるべきはず。

人工知能には人間の常識を理解できない、ということはよく言われること。「エミ」を表す代名詞を「his」としてしまったこの訳も、常識を解さない機械翻訳、として片付けるのはとても簡単なことです。

しかしこれを読むわたしはどうして「エミ」が女性の名前だろうと思ったのだろうか、それを考えるとそうシンプルな話では済みません。文中に「エミ」が何者かを示す手掛かりは皆無であるはずなのに、わたしは名前の印象だけで「エミ」を女性だと思った、その意識の働きはいったい何が土台にあるのでしょうか。

思うに、これはパターン認識の結果なのではないかと思われます。言ってしまえばごくシンプルな話で、要はこれまでに「エミ」という名前の女性を何人も見聞きし、逆にその名前の男性を見た経験が(少なくとも自分は)全くないか、あってもごく回数が少ないからこそ、「エミ」という名前を女性に結び付けやすくなったのではないでしょうか。

このように既知のパターンから学習して未知のものを推論するというのは、まさに人工知能が得意とするところです

エミ」が女性の名前だと直感した意識の働きがパターンの蓄積に基づいているとするならば、コンピューターにも同じことができるはずではないでしょうか。

こう考えてみると、機械に人間の常識を教え込むというタスクは、少なくとも部分的には結構できてしまうものなのかもしれません。

ひっきりなし

これは「Long-awaited」と訳されています。「長く待ち望んだ」という意味の表現であり、これでは問題のある訳ではないかと思われます。

原文を見てみましょう。「ひっきりなし」とは、絶え間なくものごとが起こることを指します。対して「Long-awaited」は先述の通り「長く待ち望んだ」という意味。これは換言すれば、ものごとがめったに起こるものでないことを示しています。これでは意味が正反対ですね。

「ひっきりなし」という言い方は、英語では例えば「constant」という単語が対応しています。この「constant」を確実に出したいときは、「絶え間ない」という表現にすれば大丈夫でしょう。原文を「絶え間ない電話が頭痛のたねでした」と書き換えると「A constant telephone call was a big headache.」となり、「ひっきりなしの電話」というニュアンスがよりよく現れる英訳文ができあがります

ところでこの「ひっきりなしの」という言葉、どうも前後の言葉によってころころ訳語が変わってくる様子

例えば「ひっきりなしの電話」だけを訳させると「Unspoken Phone(語られなかった電話)」となります。別のケースとして「ひっきりなしの訪問客」だと「Uninhibited visitor(制限されずやってくる訪問者)」に。「uninhibited」という言葉は、「何にも遮られず」というニュアンスが含まれています。何にも遮られないからこそ自由に訪問できるわけで、結果として訪問者が後を絶たない、という解釈を取るならば、あながち間違った表現とも言いがたいものです。このように、意味が怪しいものからなかなかひねった訳まで、幅広い訳語が出力されうるものなのです

これらを参考に、望みの英訳文を出力させる原文としては、以下のような文章が考えられるでしょう。

エミは彼女の両親のことを愛していましたが、両親からの絶え間ない電話が大きな頭痛のたねでした。

Emi loved her parents, but the constant calls from parents was a big headache.

ある名前が男性の名前かそれとも女性の名前なのか、そういう判断基準は言葉や文化圏によって大きく変わってきます。人間であればそれを直感的に判断できますが、ではそんなことができるのはなぜなのでしょう?どんな過程を経てそれが可能になるのでしょうか?

常識というものがどのような過程を経て形成されるのか、それを丹念に調べることが重要なのかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です