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1つのあいさつを2つに増やしてくれるGoogle翻訳の英訳

人工知能は人間と同レベルか、それ以上の認知的・知的能力を発揮します。しかし人間とは異なる知能の体型であるため、インプットの認識・処理のしかたは人間の常識とは異なっている可能性が大いにあります。

今回の事例はまさにそんな事例。何気ない、ともすれば読み飛ばしてしまうようなあいさつの文言に、大いに注意しなければならないかもしれません。

今回の原文は非常に短いものです。

お元気でお過ごしのことと思います。

訳文は後々書き出すことにして、今回はこのたった一文のGoogle翻訳文を掘り下げていくことにします。

切り分けられた訳文

これの英訳は「I hope you are fine and have a good day」となります。これは「お元気で、よい日を過ごされていることと思います」というような意味になります。

これは相手の体調をうかがうというよりは、単なるあいさつの意味が強い一種の定型文です。ですので本来なら訳文は「I hope you are fine」だけで十分のはず。これは「ご壮健のことと思います」という文面になります。

なぜこの英訳文には「have a good day」がついたのでしょうか。
ありそうな理由としては「お元気で」と「お過ごし」を分けた、ということが考えられます

この原文は「元気で過ごす」に「お」をつけて丁寧な表現にしたものです。一般的には「元気で過ごす」というひとまとまりの言葉で「健康である」ことが示されるもの。

一方で、牽強付会のきらいはありますが、異なる解釈も可能です。これを「元気で」と「過ごす」に切り分けたならば、「健康である」ことと「時間を過ごす」という2つのメッセージを発しているという解釈もできなくはありません

もちろん、「元気で過ごす」を後者のように捉える場合はほとんどないでしょう。しかしGoogle翻訳が現にそう解釈した以上、それに至る何らかの要因はあるはずです。ここからはそれが何で、どうしてそうなったのか、少し掘り下げて予想してみることにします。

「お」のあるなしで大違い?

まず考えられるのは、丁寧な表現に使う「お」の有無

例えば「お元気で過ごしのことと思います。」のように「過ごしている」から「お」を抜くと、「I hope you are doing well.」になります。この文章は「ご壮健のことと思います」という旨の文なので、「元気」と「過ごす」が切り分けられていません。

丁寧語として「お」をつけるのは基本的に個別の単語に対してなので、「お元気」と「お過ごし」が並んだことで、両者の間には意味の上で区切りがあると判断され、それぞれが個別に訳出されたのではないでしょうか

もう少し掘り下げてみましょう。元の文をまた少し改変した「お元気でお過ごしだと思います。」を英訳させると「I hope you are in good health.」になります。こちらは切り分けず訳されていますね。

原文からの改編箇所は「お過ごしのことと思います」を「お過ごしだと思います」とした部分だけ。これが一体どう処理されるのかはわかりませんが、「よい日をお過ごしのことと思います」のニュアンスまで出そうと思えば、「お」と「ことと」の両方が必要なようです

この英訳文のおもしろい点はもうひとつ、「過ごす」という部分に「good」が補われている点です。「過ごす」だけなら善し悪しでいえばニュートラルなのですが、訳文では「have a good day」と「good」が当てられています

「good」がどこから来たか

この「good」は何に由来するのでしょうか。

一つの可能性としては、文章全体から「相手の調子を気遣うあいさつである」というコンテクストを読み取り、その上で形容詞を補ったということが考えられます。

英語のあいさつとして「I hope you have a good day(よい日を過ごせますように)」という言い方が存在します。あくまで推論ですが「お元気で」という箇所から「体調を気遣うあいさつである」という風に全体の文脈が判定されたのでしょう

すると、続く「過ごす」も同じく、あいさつに関わる何かの表現だと判断されるはず。その後「過ごす」が時間や日にちと関連づけられ、それに関わるあいさつ表現として上記の定型文が出力された、という、もしかするとこういうルートで判断がなされたのかもしれません。

ともすれば普段気にも留めないような表現が、機械翻訳を扱う上で気をつけなければならない場合もあるようです。単語体単語の変換を行うわけではない、ニューラルネットワークを活用した方式の機械翻訳であるだけに、わずかの入力の差が大きな違いにつながることを意識しておくのは重要なことなのです。

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