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忖度は「察して」「悪い」ことをする? Google翻訳が「忖度」を解釈する

今回の記事は文章単位の訳ではなく、ひとつのワードにフォーカスし、Google翻訳がどれほどうまく意味を読み取り訳すことができるかを見ていきたいと思います。

取り扱うのは去年からの注目ワード「忖度」。Google翻訳は太刀打ちできるのでしょうか。

忖度の定義は?

そもそも「忖度」とは何を意味する言葉なのでしょう? これがわからないと英訳はできません。

明鏡国語辞典第二版によるとその意味は「他人の気持ちをおしはかること」。これだけならば「推量」と変わらないので、英訳をするならば「guess」や「conjecture」という単語がぴったり当てはまります。

ところが言葉は生き物で、時代とともに変わるもの。最近の用例を見てみると、ただ「推量する」というだけでなく「上位者の意向を推し量る」あるいは「推し量った上でそれに配慮した行動を取る」というような意味が付け加えられています。ここまでを含めた用法になると、ぴったり相当する英単語は存在しません。

「忖度」のGoogle翻訳

そんな言葉をGoogle翻訳はどう訳すのでしょう? ともかくも訳させてみることにしました。

出典は2017年4月20日毎日新聞より。「GINZA SIX」という商業施設のオープン式典での安倍首相のスピーチの一部を訳させてみました。

よく私が申し上げたことを忖度していただきたいと、こう思うわけであります。

It is my opinion that I would like to ask you what I said frequently.

この発言は「(この)原稿には残念ながら山口県の物産等々が書いてありませんが、おそらく(店頭には)あるんだろうと思います。」という発言に続くもの。GINZA SIXの売り場に並んでいた各地の名産をスピーチで紹介した後、安倍首相は自身の本籍地である山口県の品がないことに言及しています。その直後に先述の発言が飛び出しました。

要を言えば、「ちゃんと山口県の名産もあるんですよね。あるならよし、なくても今後仕入れるなりしてちゃんと揃えておいてくださいよこれぐらいは直接言わなくても察してくださいね」という旨の発言。これは森友学園疑惑の矢面に立たされていた首相の放ったジョークとして笑いを誘いました。

では、Google翻訳の訳文はこれをどう読み取ったのでしょうか?

「忖度」の訳語いろいろ

英訳文は「私が度々申し上げていることをあなたにおたずねしたい、というのが私の意見です」というような意味になっています。文頭にある「よく」が「申し上げた」にかかっており、かつそれが「頻繁に」の意味に解釈され「often」と訳されています。この「よく」はどちらかといえば「忖度していただきたい」の方にかかっているもの。ですので本来は「頻繁に」ではなく、「入念に」というような解釈の方が正確だと思います。

この文中で「忖度」という動詞は「ask(訊ねる)」と訳されているようですが、この言葉は分の前後関係が変わると訳語が大きく変化します

例えばシンプルに「忖度する。」だと「to be patient.(辛抱する)」に、「忖度を願います。」だと「I’m counting on you(頼りにしています)」、「忖度してほしい」だと「I want you to do something wrong(何か間違ったことをしてほしい)」、「忖度するべきだ。」であれば「You should do it wrong」となります。

ご覧の通り訳語はバラバラ。「忖度」の単語そのものの意味をしっかり認識しているとは思えません。むしろ単語の意味の認識はぼんやりとしていて、訳語を選ぶ決め手は文脈にあるような印象があります。

Google翻訳が持つ「忖度」のイメージ

単語自体の意味の認識にはどのような傾向があるのでしょうか。

シンプルな文章を訳させた場合、訳語として選ばれやすいのが「wrong(間違い、悪)」や「patience(寛大、物わかりがよい)」という単語ではないかと思います。
気になるのは「patience」という訳語。これが「物わかりがよい」という意味を強調し、「他者の意向を汲む」というニュアンスで使われているのであれば、「忖度」の本来の意味に近い用法をしているといえなくもありません
他者の意向を汲むという意味での「patience」、そして「wrong」――これだけ見てみると、最近の報道で使われる「忖度」という言葉の印象だけは拾えているようですね。

「忖度」を英語で言うためには?

ある程度ニュアンスを把握してはいるようですが、まだまだGoogle翻訳は「忖度」に対応しきれないようす。「忖度」という言葉はどう英訳するのが的確なのでしょう?

それについてはこちらの記事に面白い考察があります。上役の意を汲んで、組織全体としての言動に矛盾が出ないよう自動でつじつまを合わせる「イエスマン」的な言葉だと解釈すれば、「忖度」という言葉は組織と個人の力学も内包する、社会学的な色彩の濃い言葉といえるのではないでしょうか。

いま広く認識されている「忖度」の意味が、英語圏とは文化の異なる日本社会で醸成されたものであり、そのために英語に対応する言葉がないのであれば、いずれ「Sontaku」という言葉が英語に取り入れられる日が来るのかもしれません。

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