文節の切り方は読点を使うものとは限りません。一文にまとめてもよさそうなものを句点で区切る、あるいは「――」のように、ダッシュを使って区切る場合もあります。
今回はコンマを使わない変則的な文区切りのある英文の訳の比較です。人間が読めば問題なく解釈できる程度のものでも、機械翻訳にとっては結構な壁になるようす。
今回の原文はゴガクルより、以下の文章。
車載カメラは、危険な接近状況を相手車両のナンバープレートも含め、動画保存します。
出典ページにある対訳英文は次のようになっています。
Dashboard cameras capture video of dangerous encounters – including the license plate of the other car.
Google翻訳とMicrosoft翻訳オンラインの訳文は、それぞれ以下の通り。
Google翻訳
In-vehicle cameras save dangerous approaching situations, including the license plate of the opponent’s vehicle, as a moving image.
Microsoft翻訳オンライン
In-vehicle cameras, including the license plate of the other vehicle, the dangerous approaching situation, we will save the video.
では、訳文のポイントを見ていきましょう。
動画
この単語はそれぞれ訳しかたが異なっています。表記ゆれ程度のもので誤訳ではないですが、少し説明を。
Microsoft翻訳の「video」は動画を表すごく一般的な単語です。動画を指して「movie」ということもありますが、そちらは基本的には映画を指す言葉。「video」は映画に限らず動画全般を指す言葉なので、少し意味が広いようです。
Google翻訳は「moving image」と訳しています。あまり聞き慣れない言葉ながら、これもれっきとした「動画」の訳語。動画を指してこの言葉を使っている例はあまりないので、もしかすると古めかしい言い方なのかもしれません。
ちなみに、Google画像検索で「moving image」を検索すると、錯視のために動いて見える静止画が引っかかります。なるほど「動く絵」で「moving image」。今現在何気なく「moving image」と言ってみて、どれほど伝わるものなのか、少し気になります。
保存する
この訳はどちらも「save」としていますが、カメラで撮影する場合にこの表現は少し不自然です。
「save」は例えば、すでにデータとして存在しているものを記録媒体に保存する、というようなニュアンスの言葉。動画に対して「save」を使う場合は例えば、Youtubeから動画をダウンロードしてPCやスマホに保存するというような時です。
カメラで写真を使って動画に残すというであれば「record」や「capture」などを使うのが一般的でしょう。これらの単語はどちらかといえば「撮影する」や「録画する」というニュアンスに近いので、撮影して新しくデータを生成するという時にはこちらがより自然に聞こえます。
Microsoft翻訳の構文
「save」を除いては文節レベルでの間違いは少ない今回の訳文ですが、Microsoft翻訳の訳文は全体の構文が怪しくなっています。
まずは「含め(including)」が何にかかっているかがわかりづらい点。
原文を見れば、これは録画する対象に「相手車両のナンバープレートを含む」というニュアンスです。車載カメラは危険な接近状況を録画するものであり、録画する映像には相手車両のナンバープレートなどの情報が含まれます、ということを言いたいのです。
「including」がこの位置にあるのでは、直前に来る主語の「in-vehicle camera」に「相手車両のナンバープレート」が含まれるのか、それとも「including」を先に置いた上で、後に来る「危険な接近状況」にかかっているのかがわかりづらいのです。
そもそもMicrosoft翻訳は文全体の構造がおかしくなっています。
別の対象の関係性がどうなっているのか全然つかめず、文章として成立しているのは最後の「we will save the video」の部分だけ。もっと言えばそこの部分にも誤訳があります。動画を保存するのは車載カメラの動作であるので、「save the video(動画を記録する)」の主語が「we」になっているのは明らかにおかしいのです。
この構文はMicrosoft翻訳には少し難しいようです。もしかすると一般的なコンマ区切りではなく、ハイフンで区切っている点が影響したのかもしれません。
適切な訳文を作らせたかったら、「車載カメラは危険な接近状況の動画を保存します。動画には相手車両のナンバープレートも含まれます。」として、単純な文章2つに分けないといけません。こうすれば「In-vehicle cameras store videos of dangerous approaching situations. The video also includes the license plate of the other vehicle.」となり、個々の対象同士の関係性がわかる文章を作ってくれます。
構文の解釈と再構成という点について、Microsoft翻訳はGoogle翻訳に一歩譲る様子。ある程度短い文節レベルの訳はそれなりのようですが、通常使われるコンマ以外の記号で文節が結ばれた場合に弱いと思われます。