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「そっくり」の2つの意味をちゃんと区別できるGoogle翻訳

町中でたまに見かける友人知人によく似た人。あれっと思って振り返り、よく見たらそっくりな別人だった……というのは普段の暮らしでたまにあることと思います。

今回取り扱うのは「そっくり」という表現の英訳。「そっくり」が持つ2つの意味を表す英語表現を解説したあとで、それぞれの意味で「そっくり」が使われている文章を、果たしてGoogle翻訳が正確に英訳できるかどうかを見ていきます。

訳文のチェックに入る前に、「そっくり」という日本語の意味を確認しておきましょう。「そっくり」という表現には、以下のような2つの意味があります。

1. よく似ているさま
2. 全部、まるまる

英語ではそれぞれ、以下のような表現が対応します。

1. Similar、look like
2. totally, entirely、場合によっては強意を表す形容詞

多義語の表現なので、文中での使われ方を把握しないと英訳はできません。少しトリッキーな単語ですが、結論を言うと、Google翻訳は高い確率でどちらの意味かを判別し、的確な英訳文を作ってくれるのです。

「似ている」という意味の「そっくり」

1文目

原文: その男は前の晩私が会った奴とそっくりでして、顔形も声も同じなんです。

英訳文: That man is exactly the same as the one I saw last night, the face shape and voice are the same.

出典: 三上於菟吉『株式仲買店々員』より引用

この文章の「そっくり」に対応する訳語は「alike/similar」など、類似を表す語です。英訳文で対応する箇所は「exactly the same as (the one i saw~)」という部分。これは「(前の晩会ったやつと)まったく同じ」という意味です。

大枠として「そっくり」ということは伝わりますが、「is exactly the same」だと、あたかも同一人物と断定しているようにも読めてしまいます。

この原文は「見た目がよく似ている」というだけの情報を伝えるものなので、「~である」を表すbe動詞よりは「look(~に見える)」を使い、「looked exactly the same as」の方がより近い文章になるでしょう。

2文目

原文: 寝衣はもちろん病院からくれたもので、経帷子とそっくりのものだった。

英訳文: Of course nothing of sleeping clothes was given from the hospital, and it was similar to Tsunako.

出典: 北条民雄『いのちの初夜』より引用

この文で「そっくり」は「similar」と訳されています。ここで使われているのは類似の意味なので、この言葉だけ取り上げれば英訳は正確。

それ以外はいくつか不正確な箇所が見られます。たとえば「寝衣はもちろん~」の箇所が「of course nothing of sleeping clothes」という英訳になっていますが、ここの「nothing」は本来不必要な単語。これではあたかも寝衣をくれなかったような文章になってしまいます。

この訳は「もちろん」の位置が悪かったようです。文頭に据えて「もちろん寝衣は病院から~」と原文を書き換えると「nothing」がなくなり、正確な訳になっています。

経帷子

経帷子という単語が英訳文では「Tsunako」となっていますが、これは明らかな間違い。本来なら「shroud」や「burial cloth」など「死装束」という意味の語が当てられるべきです。

3文目

原文: 街は左手に見えていましたが、それはちょうど、芝居の町そっくりでした。

英訳文: The city was visible on the left, but it was just like a town town.

出典: 原民喜『ガリバー旅行記』より引用

この文章の「そっくり」に対応する英訳文は「it was just like (a town town)」です。「be just like~」は「~とそっくり」という意味の表現なので、ちゃんと意味を解釈し、的確な表現がなされています。

方角を表す「左手」という表現はよく「left hand(左手)」と訳されてしまい、意図したニュアンスからずれてしまうことがあるのですが、この文章では意図した通り「on the left(左側)」という訳語になっています。

また「芝居の町」の訳が「town town(町の町?)」となっています。おそらく「town of play」がニュアンスとしては近いのでしょう。原文から「そっくり」を削り、「芝居の町でした」とすると「play town」という、もう少し近いニュアンスの単語が出力されます(的確とは言い難いですが)。

4文目

原文: 遥かな過去において自分はこれとそっくりの光景を見たことがあるような気がして来る。

英訳文: In the far past I feel like I’ve seen a sight that looks exactly like this.

出典: 江戸川乱歩/紀田順一郎編『江戸川乱歩随筆選』より引用

文中の「そっくりの光景」に対応する英訳文は「a sight that looks exactly like this」。まさにぴったり「これと丁度そっくりの光景」という意味が伝わる訳文ができています。

5文目

原文: 夢の中で己を助けた黒い牛男にそっくりである。

英訳文: It looks exactly like a black cow man who helped herself in her dreams.

出典: 中島敦『牛人』より引用

「黒い牛男にそっくりである」に対応する英訳文は「It looks exactly like a black cow man」。「looks exactly like~(~とまったく同じに見える)」という表現は、類似の意味を自然に表せています。

この英訳文では、文中の代名詞がすべて「her」という女性名詞になっています。

代名詞が本来指すものは小説の主人公である男性です。主人公はある時夢を見て、その夢の中で牛の姿をした人間に助けられました。夢で見た牛男によく似た人物に現実で対面した、というのがここで描かれる場面です。
ですので正確な英訳は、「black cow man who helped me in my dream」。助けたのは「わたし」であり、夢を見たのも「わたし」になるはずです。

しかしこの文章では主人公の一人称として「己(おれ)」という古めかしい表現を使っています。Google翻訳はどうやらこれを「己(おのれ)」つまり「自分自身」と解釈したようで、そのために助けたのは「herself(彼女自身)」と訳してしまいました。

動作の対象を取り違えただけでなく、牛「男」であるのに代名詞を女性名詞にしてしまっているという、機械翻訳の弱点が詰め合わせになったような誤訳ができてしまったのです。

「まったく」という意味の「そっくり」

1文目

原文: 彼らのまわりで、風景や音や匂いは本来の意味をそっくり失ってしまっている。

英訳文: Their landscape, sounds and smells have lost their original meaning entirely around them.

出典: 村上春樹『1Q84 BOOK3』より引用

この文の「そっくり」に対応する単語として「entirely(全く)」が当てられています。この文では、ちゃんと原文通りの意味で「そっくり」が解釈されていますね。

2文目

原文: 妹に対する今までの感情はそのままそっくり憎悪の念に変ってしまいました

英訳文: My feelings for my sister have changed to just as it is to hatred altogether.

出典: 小酒井不木『呪われの家』より引用

「そのままそっくり」という箇所には「just as it is」という英訳が対応しています。これはあるものについて「そのまま、ありのまま」というような意味。

今まで抱いていたであろうポジティブな感情のありのままが憎悪の念に変わるというのは意味が通りません。ここで言われているのは、ちょうど数字の正負が逆転するように、ポジティブな思いがその強さをそのままに、全部ネガティブな感情に変わってしまったということ。ですので、単に「entirely」とも違う、もっと別な表現が必要です。

3文目

原文: 小屋の場所も人数もそっくり同じだから疑う余地がないと言うのであった。

英訳文: It was said that there is no doubt that the location of the hut and the number of people are all the same.

出典: 坂口安吾『青春論』より引用

「そっくり同じ」という箇所が「all the same」と訳されています。これは「まったく同じ」という意味であり、「同じ」を「same」として、強意を表す単語として「そっくり」を解釈した結果の訳語でしょう。

4文目

原文: 新聞に出ている大臣たちの言葉を、そのまま全部、そっくり信じているのだ。

英訳文: I trust the whole words of the words of the ministers in the newspaper.

出典: 太宰治『新郎』より引用

この文章の「そっくり」に対応する「whole」は「すべて、まるごと」という意味であり、「言葉をそっくり信じる」という意味が「trust the whole words」という表現ですっきりと表されています。

5文目

原文: これをそっくり写真に取れば、立派な、高級な漫画になるであろう。しかし安全も危険も実は相対的の言葉である。

英訳文: If you take this all in pictures, it will be a fine, high-class cartoon.

出典: 寺田寅彦『KからQまで』より引用

この文章の「そっくり」に対応する訳語として「all」が当てられています。

「そっくり写真に取れば」という文節単位では「if you take this all in pictures(もしこれをすべて写真に取れば)」と読むことができ、これは原文の意図した通りの意味となっています。

これらの例を見る限り、Google翻訳は「そっくり」がもつ2つの意味をちゃんと文中から区別でき、高い確率で的確な英訳文を作成できることがわかります。

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