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人類の未来は「鬱っている」?Google翻訳の解釈するマスク氏の未来図

宇宙に紅いスポーツカーを打ち上げた「ファルコン・ヘヴィ」の快挙が世界の話題をさらったスペースX。その代表者であるイーロン・マスク氏は、宇宙開発に熱心に携わっています。

そんな彼がTEDトークで語った宇宙と人類の未来への想い。機械翻訳はどのように読み取るのでしょうか。

今回の原文はイーロン・マスク氏のTEDトークより、以下の部分を抜粋。

I think it’s important to have a future that is inspiring and appealing.……. And if we’re not out there, if the future does not include being out there among the stars and being a multiplanet species, I find that it’s incredibly depressing if that’s not the future that we’re going to have.

それをGoogle翻訳で訳したものがこちら。

私は感動的で魅力的な将来を持つことが重要だと思っています……。 私たちがそこにいなければ、未来には星の中にいて、複数の種であることが含まれていなければ、私たちが持つ未来でなければ、それは信じられないほどうつっています。

出典となるTEDトークのページからは、トークの全文を読むことができます。日本語を含めた各国語への訳も記載されているので、興味があれば目を通してみてください。

それでは、訳文を見ていきましょう。

Future

Google翻訳では「将来」とされている「Future」の訳は、TEDページの対訳にあるように「未来」とするほうがいいでしょう。

デジタル大辞泉の解説を見ると、『「未来」は「将来」よりも非現実的な遠い先という感じが強い』とあります。つまり未来と将来では「現在からどれほど時間が経った後か」という点で差違があるのです。解説では「200年後の未来を創造する」に「将来」は使いにくいとあり、同時に10年程度の先のことを指すならば普通は「将来」を使うとなっています。

ここで語られるマスク氏の展望は、人類が本格的に宇宙に進出し、他の惑星に生活圏を作り出すという遠大なもの。とても10年20年では間に合わないようなこの「Future」には、「未来」という言葉が望ましいでしょう。

If we’re not out there

訳文は「私たちがそこにいなければ」となっています。ポイントは「out there」という表現で、字義通りなら「そこに行く」「外に出る」というような、かなりあやふやな言い方。言葉だけ追えば簡単でも、正確な訳のためにはコンテクストを読み取る必要があるやっかいな言葉です。

「そこ」とはどこなのかといえば、文中から推測できるのは「宇宙」でしょう。とはいえ直接的に明示されているわけではないことに注意してください。直後の文中にある「among the stars(星々の中)」や「multiplanet(多惑星)」という、どちらかといえば比喩的な言葉を手がかりにしなければなりません。

Multiplanet Species

Google翻訳は「複数の種」と訳していますが、この訳語にするためには「multispecies」のような単語でなければなりません。つまり明らかな間違い。

普段あまり聞くことのない「multiplanet」という単語の意味は「多惑星」。「Multi(複数)」な「Planet(惑星)」というなんともそのまんまです。するとこの言葉は「複数の惑星が関わるSpecies(種族)」を指し示すことになります。

話の主題は未来における人間の宇宙進出なのですから、この「種族」は人間だと解するのが自然でしょう。宇宙に出て行った人間が、複数の惑星と関わる――となると、つまり地球を出た人類が複数の惑星で暮らし、活動をする、ということでしょう。なのでTEDの字幕にもある通り、「複数の惑星に住む種族」が的確な訳です。

うつっている

これは最後の文にある「depressing」の訳でしょう。人が宇宙に出ないような未来は残念なものに思える(=depressing)、という文脈です。「depress」には「気が滅入る」「憂鬱な」という日本語が対応するはずなのに、出てきたのはどうもゆるい「うつっている」。

この珍奇な「うつっている」をそのままGoogle翻訳で英訳しても「depressing」は出てきません。代わりに「移行中」か「進行中」とでも訳すべき「it is underway」と訳されます。これを漢字で表記し、「鬱っている」とすれば見事に「It is depressing」の訳語が出てきます。

高度な技術を駆使したファルコン・ヘヴィの打ち上げ実験で、紅いスポーツカーを宇宙に挙げるというユーモアを見せたマスク氏。「うつっている」という、なんとも言えないおかしみを感じさせるGoogle翻訳の言葉遣いは、そうしたユーモアのセンスにあやかったものなのでしょうか。

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