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「but」をめぐる二者択一でしくじったGoogle翻訳

いかに含蓄のある言葉でも、誤解曲解されてしまえば形無し。翻訳は少しの読み違いが大事に繋がるので気を遣う作業なのです。

「but」の一文字をどう解釈するか。ただその一点で解釈が二つに分かれてしまう、今回はそんな名言のおはなし。

今回の原文はWikiquoteより以下の一文。

The true barbarian is he who thinks every thing barbarous but his own tastes and prejudices.

イギリスの著作家ウィリアム・ヘイズリットが野蛮というものについて語った一言です。

Google翻訳で和訳したものが以下の通り。

本当の野蛮人はすべての野蛮を彼自身の好みと偏見と考える彼です。

それでは訳文のポイントを見ていきましょう。

he who thinks ~以下

訳文は「すべての野蛮を彼自身の好みと偏見と考える彼です」。一応形は整っていますが、どうも意味が通りません。野蛮を自分の好みと考えるとは、どういうことか。野蛮好みの人間が野蛮だというのをあえて語るほどのことなのか。

この箇所は「but」の解釈ひとつで訳文が大きく違ってきます

but」は多くの場合「しかし」という逆接として使われますが、接続詞ではなく単に強調を表す副詞として使われることもあります。「it is but ~」という文章は一番シンプルな例でしょう。これは「それはただ~であるに過ぎない」という、英単語の「only」に相当するような意味になります。

「but」にはもうひとつ、「~を除いては」という意味もあります。ちょうど「~だけはありえない」という意味の「anything but~」という用法では「but」がこのように使われています。

例を出して細かく見ていきましょう。たとえば「It is anything but a pen」という文章は「それがペンであるはずがない」と訳されます。正直なところ一見するとわけがわからないのですが、この一文を分解してみると「but」の役割が見えてきます。

文の前半にある「it is anything」だけを切り分けると、ちょうど「それ(=it)はあらゆるもの(=anything)である」というような意味になります。ストレートに「あらゆるものである」と言っているのではなく、これが示すのは可能性の話。この裏には「これがどんなものであったっていい/何であったとしてもその可能性がある」という含みが隠れているのです。

これに続く「but a pen」は「ペンは除く」という意味です。「it is anything」にこれが続くことで、文全体として「それ(It)はいかなる物体でもありうるが、その可能性の中からペンだけは除外される」と語られるのです。

前半分で「あらゆる可能性がある」という、ある種の譲歩を見せ、ここで一旦「どんな可能性でも受け入れる用意がある」と告げておく。そこから間髪入れずに「ただしペンはその可能性から除外される」と言うのですから、「anything but~」とはかなり強い意味での否定となります

Google翻訳の解釈は?

「~にすぎない」あるいは「~を除く」という2つの意味のうち、Google翻訳は前者、つまり強調の意味で解釈したと思われます。それに則して訳すとすると「あらゆる野蛮なことを自らの好みと偏見にすぎないと考える人こそ、真の野蛮人である」となるでしょうか。あらゆる野蛮を内包するような趣味と偏見を持つような者こそまことの野蛮人である、というような解釈が成り立たなくもない文章です。

もうひとつの「~を除いては」という解釈を採るとすればどうでしょうか。

主語である「真の野蛮人」が「野蛮である(barbarous)」と考える対象は「every thing but his own tastes and prejudices」であると解釈できます。文の仕組みは「anything but」に近く「every thing(あらゆるもの)」から「his own tastes and prejudices(彼自身の好みと偏見)」を除外する(but)という形になり、すなわちこの文章は「自分の好みと偏見以外のあらゆるものを野蛮とみなす人間こそ、真の野蛮人である」という訳になるはず。

意味がすんなりと通じ、なるほど、と思う洞察が読み取れることから、後者の解釈が正しいように思えます

余談ながらこの例文、「but」の手前にコンマを打つとGoogle翻訳には逆接の意味で解釈されてしまいます。「but」の意味を正確に解釈するためには文脈が、それもごく基本的な構文の決まりが重要なようす。SNSの書き込みなどでアポストロフィーやコンマが省略されるのには困った、というジョークが英語圏には数多くありますが、機械翻訳にとっては笑い事で済まない問題のようです。

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