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GoogleとMicrosoft、シェイクスピアに詳しいのはどっちだ?

英語圏の物書きの間では、聖書と並んでよく引用されるのがシェイクスピア作品。翻訳においても一種の教養となっていますが、今や翻訳業界の一大(?)プレイヤーであるGoogle翻訳(とMicrosoft翻訳)は、その教養をどれほど修めているのでしょう。

今回はシェイクスピア作品タイトルの和訳をさせてみて、その中から特に気になった訳文をGoogle翻訳とMicrosoft翻訳とで比較してみました。

All’s Well That Ends Well

Microsoft翻訳: うまく終わるすべての井戸

Google翻訳: 終わりよければ全てよし

邦題は「終わりよければ全てよし」。これは慣用句としても使われる表現で、意味はこのタイトルそのままです。表現自体はシェイクスピアの作品以前にあったようですが、タイトルを正確に訳せているGoogleは慣用句と認識したのか、作品タイトルと認識したのかは不明です。

Microsoft翻訳はどちらとも認識できてない、しっちゃかめっちゃかの訳です。「よい」とするべき「Well」を「井戸」と訳しているという訳語の選定ミスだけでなく、このタイトルは一応主語+動詞の構文になっているのに、修飾節の付いた名詞として訳してしまっています

倒置法で一般的な語順から変えてあることが原因になっての誤訳だと思われます。倒置法はシェイクスピア作品につきもので、このタイトルを一般的な語順に直すと「All that ends well is well」となります。

しかしMicrosoft翻訳はこちらの文章でも「すべてがうまく終了する」と訳されてしまい、結局本来のニュアンスは反映されません。「well」が2度出てくるので、それに即して訳すなら「よい」という旨の言葉が2度出てくるべきはず。同じ単語が短いスパンで複数回出てくると、表記ミスやノイズとして削られてしまうのでしょうか

Taming of the Shrew

Microsoft翻訳: ネズミの飼い方

Google翻訳: シュルーの味方

本来の邦題は『じゃじゃ馬慣らし』。

Microsoft翻訳は単に直訳した結果奇妙な語感になっています。

本来の意味を考えると、「tame」が「慣らす、調教する」、「shrew」に「口やかましい女性」となります。「じゃじゃ馬慣らし」のタイトルはこちらの意味を汲んだもの。

生物学的に「shrew」は「トガリネズミ」を指す言葉でもあるので、Microsoft翻訳はこちらの意味を採用した結果の「ネズミの飼い方」になったのでしょう。

Google翻訳の「シュルーの味方」という訳はMicrosoft翻訳に輪を掛けて意味不明です

「Shrew」をどちらの意味でも解釈せず、「シュルー」という固有名詞、おそらく人名か何かかと判断してそのままカタカナ語訳。加えて「味方」という、原語にはない言葉を捏造しています。

これは「taming」を「teaming」のスペルミスと判断し、後者に変換した上で和訳した結果ではないかと思われます。「team」には「チームを組む、隊を編成する」というような意味があり、それが動名詞の形になっているため「味方」という言葉が訳語に選ばれた、という過程ではないだろうかと。

Love’s Labour’s Lost

Microsoft翻訳: 愛のロストロスト

Google翻訳: 愛の労働が失われた

邦題は『恋の骨折り損』あるいは『恋の苦労のからまわり』。

ここで使われる「labour」は字義通りの「労働」ではなく、象徴的に「労苦」や「骨折り」というようなニュアンスです。それが「lost」した、つまり失敗したのであるから、苦労の甲斐がなくなったつまり「骨折り損」ということ。

字義通りにも訳せていない、というか「labour」を読み違えたのか「ロスト」としてしまっているMicrosoft翻訳はいくらなんでもひどい。

名詞のカタカナ語表記

Google翻訳は人名を訳すとき、英語由来ではない言葉のカタカナ表記にばらつきが見られます。

『Titus Andronicus(タイタス・アンドロニカス)』、『Timon of Athens(アテネのタイモン)』にはギリシャ語由来の名前が登場しますが、Google翻訳の訳語はそれぞれ『タイタス・アンドロニカス』、『アテネのティモン』となっています。本来のギリシャ語の発音はそれぞれ「アンドロニコス」と「ティモン」。つまり同じギリシャ語の固有名詞でありながら、一方は英語発音寄りの表記、もう一方はギリシャ語寄りの表記になっているのです。

また別の作品『Coriolanus(コリオレイナス)』の訳は『コリオラヌス』となっています。「コリオラヌス」はラテン語由来の人名。邦題は「コリオレイナス」と英語発音に基づく表記であり、「コリオラヌス」はラテン語発音に近い表記です。

発音は十把一絡げに決まっているわけではなさそうですが基準はよくわかりません。「titus andronicus」をGoogle翻訳で英語以外から日本語に訳させても表記は変わらないあたり、もしかすると翻訳前の言葉の段階ではなく、翻訳先、つまり日本語の文章を構成する段階の処理で決まるのでしょうか

フィードバックの有無

次の2作品の訳を比べてみてください。

Love’s Labour’s Lost

Microsoft翻訳: 愛のロストロスト

Google翻訳: 愛の労働が失われた

Much Ado about Nothing

Microsoft翻訳: 何もについて多くの Ado

Google翻訳: から騒ぎ

この2タイトルの訳はGoogle翻訳とMicrosoft翻訳で明らかな品質の差があります。Google翻訳の画面を見ると、コミュニティーでチェック済みの翻訳という表記が出ています。つまりこれらは人間からのフィードバックをもとに品質を改善した訳であるということ

Google翻訳には以前からユーザーのフィードバックを取り入れる機能がありますが、一方のMicrosoft翻訳にはそうした機能が見当たりません。こうして外部の要因をもとに訳語の品質を改善できる仕組みがあるとないとでは、長期的なサービス品質に大きな差が出ると考えられます。

ユーザーからヘイトスピーチを学習してサービス停止になったチャットボットの例もあることを考えると慎重であるべきでしょうが、今やFacebookも翻訳に対するユーザーのフィードバックを得ることで品質の改善を試みています。Microsoft翻訳が今後フィードバックをどう受け入れていくつもりなのかは注目すべきでしょう

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