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励ましの言葉はトランスフォーマーのネタが正解?

怪我をした、あるいは病気になった知人に向けて、どのような言葉を贈りますか?

力づけるべく励ますのか、あるいはきっと大丈夫だと安心させるのか、贈る言葉ひとつにも、さまざまな言い方があります。

Google翻訳はけが人をどう励ますのでしょう? 答えは「戦闘機」でした。

今回取り上げる文章はこちら。

Just left hospital. Rep. Steve Scalise, one of the truly great people, is in very tough shape – but he is a real fighter. Pray for Steve!

原文はドナルド・トランプ大統領のツイッターから。野球の練習中に銃撃されたスティーブ・スカリス(Steve Scalise)下院議員のお見舞いに行った直後の発言です(スカリス議員はその後目覚ましい回復ぶりを見せ、7月25日に無事退院)。

これをGoogle翻訳はどう訳すでしょうか? 訳文を見てみましょう。

ちょうど病院を出た。 本当に偉大な人々の一人であるスティーブ・スケリスの議員は、非常に厳しい状況にありますが、彼は本当の戦闘機です。 スティーブに祈って!

もうひとつ、Bing翻訳の訳文も載せておきます。

ちょうど退院。本当に偉大な人の一人議員スティーブ Scalise は非常にタフな形で-が、彼は真のファイター。スティーブのために祈る!

Google翻訳とBing翻訳を少し見比べるだけでもけっこうな違いがあることがわかります。
順を追って詳しく見ていきましょう。

まずは最初の一文、「Just left hospital」という部分。ここですでに書き方の違いが明らかに出ています。感想を言うならば、Google翻訳はズルイけど上手い言い方をしていると言えるでしょう。

病院を出た、という言い方はかなりぼやけた言い方です。お見舞いで一時的に病院に来ていて立ち去った、あるいは(牽強付会のきらいはありますが)医者にかかるか入院するかしていて、治療が終わったから病院を出たと、どちらとも言い張れる書き方です。

逆にBing翻訳を見ると、退院したと言い切っています。事実は違うのでこれは誤訳としか言いようがありませんが、かといって文脈を読めない状態での訳なのでそう断じるのも酷なもの。

これに関しては、文脈をどう確認して訳文に反映させるかという課題が含まれています。これはおそらく入力された文字を翻訳するというタスクを超え、機械が自発的に情報を収集して意思決定を下すという、どちらかといえば汎用人工知能に近い能力が必用になってくるかもしれません。

次の一文の「One of the truly great people」は、どちらも似通った訳です。

この「one of the ~」という言い回しは英語には頻出するもので、皆さんも英語の授業で聞いたことがあると思います。日本語にすると不自然ですが「~なものの一つ/一人」という訳はもはや定型文のようになっており、逆にこれ以上の訳を機械翻訳に求めるのが酷というものなのでしょうか。

次の「very tough shape」というくだりに差しかかると、両者の違いが際立つ結果となっています。各々の訳を見ていきましょう。

まずはGoogle翻訳の作成した「非常に厳しい状況」という言葉。うまく文脈に沿った自然な言い方になっています。「状況」という言葉はふわっとしていますが、読む側からすれば容態はよくないのであろうと予想がつくので必要十分な意味を伝えていると思います。

ここはToughという語の訳が見事です。

「Tough」という語は「タフな、頑健な」というポジティブな意味合いと「厳しい、逆風が吹いている」というネガティブな意味合いのどちらにも使える厄介な言葉です。人間を指す名詞や人称代名詞についていれば前者の意味合い、状況や場合について言うならば後者の意味合いと、もしかすると意外にしっかり使い分けられていて、それが訳文にも反映されたのかもしれません。

一方のBing翻訳はひどい。単語を入れ替えただけのような「タフな形」という面白おかしい訳になってしまっています。力士の像の話でもしているのならタフな形なんて言葉も出てくるかもしれませんが、残念ながらそうでもない。むしろ怪我人の話をしているのだからタフも何もない。

そして今回一番奇天烈な、そしてある種の番狂わせ。Google翻訳の「彼は本当の戦闘機です」。これはどうしてこうなったのか本当にわからない。

ミリアム・ウェブスターの辞書を見てもケンブリッジの英英辞典を見ても、Fighterの意味としては戦闘機よりも先に「闘士」という意味が出てきます。この場合はこちらの意味が適切でしょう。闘う人、苦境にもめげずに立ち上がる強い人という意味から転じて、負けないでほしい、回復してほしいという願いを込めたニュアンスに違いありません。

そこを突然「戦闘機」。「彼」という人称代名詞から「戦闘機」につながる文章とはどんなものがあるのでしょうか。どんなメタファーを言い表そうとしたのか。戦闘機を人物のように扱う状況と聞けば、私にはトランスフォーマーしか思いつきません。ここまでなかなか高レベルの訳文を見せてきたGoogle翻訳だけに、驚きのワードチョイスです。

自然に訳すとすれば「彼はけして負けはしない」というような言い方でしょうか。いっそBing翻訳の「ファイター」がさっぱりしていいようにさえ思えてきます。

最後はごくシンプルな一文。

命令形、この場合は他の人たちに呼びかけるような言い方を表現できている点で文句なしにGoogle翻訳が正確だといえます。逆にBing翻訳がどうして「トランプ大統領が祈る」ようなニュアンスになっているのかが不思議です。なぜ主語を省略したような文章だと認識したのでしょうか。基本的にこの形は命令形になるはず。そしてコンテクストを考えると、これは命令というよりは呼びかけ、「Let’s~」に近い形がいいと思われます。

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