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機械翻訳はどれほどアメリカ大統領を観察しているのか

「American Steel」という、一見するとシンプルな言葉。ただ、誰が発言したかなどの文脈までを含めて考えると、訳語は千変万化します。

このわずか2単語をどう訳したか。そこから見えてくるのは、Google翻訳はもしかするとトランプ大統領のことをかなり理解しているのかも……ということです。

2017年7月、アメリカの新型原子力空母ジェラルド・R・フォードが就役。アメリカ南部バージニア州にあるノーフォーク軍港で行われた就役式にはトランプ大統領も出席し、演説を行いました

今回訳する文章は、その演説の一部です。

American steel and American hands have constructed this 100,000-ton message to the world

American might is second to none and we’re getting bigger and better and stronger every day of my administration. That I can tell you

これらをGoogle翻訳とエキサイト翻訳にかけた訳文を分析していきます。それぞれの訳文は以下の通り。

Google翻訳

「アメリカの鉄鋼会社とアメリカ人の手がこの10万トンのメッセージを世界に発信しました」

「アメリカ人は誰にも勝るものではなく、毎日の私の管理がますます大きく、より強くなっています。 私はあなたに伝えることができます」

エキサイト翻訳

「アメリカのスチールおよびアメリカの手は、世界にこの100,000トンメッセージを構成した」

「アメリカ人は誰にも勝るものではなく、毎日の私の管理がますます大きく、より強くなっています。私はあなたに伝えることができます」

それでは、ポイントごとに見ていきましょう。

「American steel」

まず気になったのはこの部分の訳。Google翻訳では「アメリカの鉄鋼会社」となっていますが、steelだけならせいぜい鉄鋼という意味になり、会社というニュアンスはないはずです。大統領もおそらくは「アメリカで作られた鉄鋼が原料となった」という意味合いで言ったのでしょう。Google翻訳はそこの解釈をひねってきました。

原料である鉄鋼がconstruct(建造・構成、訳文中ではmessageという単語を受けてか「発信」となっている)した、というよりは、日本語としては人なり企業なり製造能力を有する何らかの主体がそうしたと書くほうが自然です。この訳文はきっとそう判断しての文でしょう。蛇足にも思える付け足しですが、レトリックとしてはうまいものだと思います。

一方のエキサイト翻訳はシンプルに「アメリカのスチール」となりました。意味合いとしては間違ってはいません。ただGoogle翻訳の訳文を見た後では、レトリックの点で見劣りしてしまいます。

「American」

1文目にはAmericanという単語が2度出てきますが、Google翻訳はそれぞれをうまく訳し分けている点に注目です。

1度目のAmericanは「アメリカの」、そして2度めのAmericanは「アメリカ人の」となっています。これはそれぞれ後に続く語を認識し、その上で自然になるよう訳した結果と思われます。2度目のAmericanの後にはHand(手)という語が続いていますが、これにかかるAmericanの訳はなるほどアメリカ人としたほうが適切でしょう。

もちろんそのまま「アメリカの手で」と訳しても、擬人法の表現だと言えばそれはそれで問題ない表現になるでしょう。実際エキサイト翻訳ではそうなっています。

とはいえ。

アメリカの雇用と製造業を守るという公約を掲げて大統領選を勝ち抜いたトランプ大統領の演説だということを考えると、このようにアメリカの企業と国民に言及するような訳文にするのは非常に理にかなっているように思われます。

空母というアメリカの強さの象徴、その完成の裏には他ならぬアメリカの製造業とアメリカ国民の力が存在する――いかにもトランプ大統領っぽい言い回しだとは思いませんか?

下手に凝らなかった結果なのか、あるいはGoogle翻訳はトランプ大統領のことを意外によくわかっているのか、いずれにしても、なかかな見事な訳し分けだと思います。

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