人に何かを頼むのは得意なほうでしょうか?
筆者は苦手な方なので、どうしても押しの弱い、迂遠な言い方になってしまいます。
一概に悪いことでもないのでしょうが、機械翻訳相手には、ストレートに要求を伝えるほうが望ましいようです。
今回の原文は、weblioの英文メールテンプレートより、仕事の依頼への返信例です。
今週の私のスケジュールはあまり厳しくないので、締め切りまでに資料を作成することができると思います。
資料作成につきましていくつか質問がございますので、ご出発前に少しだけ打ち合わせできればと思います。打ち合わせの機会を調整いただけますでしょうか。
ご期待に添えるように、頑張りたいと思います。
これをGoogle翻訳で英訳した文章がこちら
My schedule this week is not too strict, so I think that we can prepare materials by the deadline. Since there are some questions concerning document creation, I hope to be able to discuss a little before departure. Can we adjust the opportunity for the meeting? I would like to hold on to your expectations.
原文を掲載していたページには、英訳分の模範例も載っています。それも参照しつつ、Google翻訳の訳文の注意すべき点を見ていきます。
スケジュールが厳しくない
ここの部分に相当する訳は「My schedule ~ is not too strict」ですが、「厳しい」という語に「strict」を当てはめている点に注意です。
「strict」という単語は、規則が厳格である、あるいは規則を厳格に守る人や他人に規則を守らせる人について厳しいという時に使います。スケジュールが厳しいという時、厳しいという言葉はこの意味ではなく、スケジュールが過密すぎる、あるいは余裕がないという意味で使われます。
このニュアンスを英語で表現するには「strict」ではなく「tight」を使います。日本語でも時々タイトなスケジュールと言いますが、これは英語での言い方に由来しているわけですね。現に出典ページの対訳例を見ても「tight」が使われています。
こちらのニュアンスの言葉をGoogle翻訳に出させたい場合は、「スケジュールがタイトではないので」という表現を使うといいでしょう。
打ち合わせできればと思います
この部分の訳は、「hope to be able to discuss」となっています。「思います」が「hope」、「できれば」が「to be able to」に対応しているのですが、この書き方だと「(自分が)打ち合わせをすることが可能であることを望む」という意味になってしまいます。
これではあたかも、打ち合わせができるかどうかは自分の能力や都合次第というように聞こえてしまいますが、これはおかしいでしょう。互いの都合を合わせたい、ということをすぐ後で言っているのですから。
この箇所の要点は「打ち合わせをしたい」ということです。なので、「I would like to discuss~」のように、相手に頼むような表現にしたほうが自然です。
このような訳語をうまく引き出すには、「質問したいので」というように直接的な文面を訳させればいいでしょう。日本語ビジネスメールの表現としては砕けすぎた表現かもしれませんが、英語は直接的な言い回しを使う機会が日本語よりも多いので、あえてストレートな文面に直して機械翻訳にかけるべき場合は多いのです。
機会を調整
ここに対応する訳は「adjust the opportunity」となっていますが、「調整」に対応する「adjust」は、すでに設定されているものを変更するという意味である点に注意してください。
このメールを送信した段階では、打ち合わせの日取りは決められていません。ここではすでにあるものを変更する「adjust」ではなく、まだ決まっていないものを新たに設定する「arrange」や「set up」を使う方が自然でしょう。
逆に、以前設定した打ち合わせの日取りを変えたいという場合は「adjust」が使えます。
ともかく、「調整」という日本語では「arrange」という訳語は出にくいので、別の表現を考える必要があります。一例として、「ミーティングの手配をお願いします」と入力すれば、出典ページにある対訳に近い文章が出力されます。
期待に添えるように
英訳文では「hold on to expectations」となっていますが、これは不自然な表現です。「hold on to」は「しがみつく」というような意味合い。「添う」を「離れずついていく」と解釈した結果の訳文でしょうか。
本来なら出典ページの対訳文のように「live up to expectations」あるいは「meet expectations」とするのが望ましいところ。「期待に応えられるように頑張りたいと思います」と書き直せば、「I would like to do my best to meet expectations.」という、より自然な訳文が出力されます。
人に何かを頼む時は、こちらの意図を誤解なく伝え、相手の気分を害することもないよう注意する必要があります。機械相手に何かをさせるのは気を遣うこともないですが、それでも、こちらの意図を誤解なく伝えるためには、人間と同程度に気をつけなければいけないのかもしれません。