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「~ing」という表現の、気をつけるべき用法にかかったGoogle翻訳

「disappointing」や「interesting」といった英語の形容詞は、元々動詞から派生してできた言葉です。動詞が現在形となることで「~するものである」というような形容詞として機能するという英語の文法規則が見て取れます。

しかし一般的に見る単語ならまだしも、形容詞の形で使われる例が少ない動詞がこのような用法をされている場合は少し戸惑ってしまいます。Google翻訳でさえそれは免れないようす。

今回の原文はWikiquoteより、チャールズ・ダーウィンが遺した以下の言葉。

In conclusion, it appears to me that nothing can be more improving to a young naturalist, than a journey in distant countries. It both sharpens, and partly likewise allays that want and craving, which, as Sir J. Herschel remarks, a man experiences although every corporeal sense is fully satisfied.

これをGoogle翻訳で訳したのが以下の文章。

結局のところ、遠い国の旅より若い自然主義者には何も改善することはできないと思われます。それはどちらも鋭く、部分的に同様に欲求と欲求があります。Sir J. Herschelが述べるように、すべての肉体的感覚は完全に満足しているものの、経験はありますが、物の新しさからの興奮と成功のチャンスは、彼の活動の活性化を刺激します。

それでは、訳文のポイントを見ていきましょう。

Can be more improving

この箇所の訳は「何も改善することができません」ですが、この文は全体的に訳語が不自然です。そもそも「遠い国の旅より若い~」という、比較対象が両者かけ離れすぎている比較文になっています。それもこれも大方は、「improving」の解釈ミスが原因でしょう

Google翻訳の訳文では「改善する」という動詞あるいは「こと」まで含めての名詞であるかのように扱っていますが、これは形容詞として解釈するのが妥当です。「disappointing」や「interesting」など、英語で動詞の現在進行系を形容詞として使う用法は広く使われています。これを「improve」という単語に対して適用するのは珍しい例ですが、文法規則に則って解釈すると「改善につながる/より向上させるものとして機能する」というような意味合いになります。

これを踏まえるとこの文章は「Nothing is more A than B」という慣用表現に落とし込むことができます。すると訳文の骨子は「BほどAなものはない」となり、「improving to young naturalist」は「若いnaturalistにとってimprovingである」という解釈を当てはめれば訳語はおおむねできあがり。

ついでながら「自然主義者」と訳された「naturalist」は「博物学者」と訳すべきでしょう。「自然主義」とはどちらかといえば哲学や文学、芸術といった文脈で使われる言葉であり自然物の収集や記録を行う学者であったダーウィンの言葉であることを考えても、これは自分と同様に自然についての知識を分類し記録する「博物学者」という訳語が妥当です。

It both sharpens, and partly likewise allays

この部分の訳文は「それはどちらも鋭く、部分的に同様に(欲求と欲求があります)」。

間違っている点は「both」の解釈です。Google翻訳の訳文は主語が2つあると解釈した上で、「(2つある動作の対象が)どちらも鋭く」と書いたもののように思えます

しかし動詞に、いわゆる3単現の「s」がついている以上、主語である主語が2つあるとは考えられません。代わりにこの文章には「sharpen(研ぎ澄ます、高める)」と「allay(和らげる)」という2つの動詞があります。「both」は本来、これらの動詞にかかるもののはずです

このような解釈違いが生まれたのは、「sharpen」と「allay」の間に副詞が挟まれているために何らかの理由で「allay」が意味のある言葉として認識されなかったからだと考えられます。

Want and craving

この部分の訳は「欲求と欲求」。意味は間違っていないのですが、全く同じ単語を2つ併置するのは日本語でなくとも不自然に響きます。また「want」と「craving」は同じ「欲求」でありながら、言葉が示す欲求の強度が違うという点で意味が異なるもの。可能であればそれぞれに異なる単語をあてはめて訳したいところです。

人によって訳は千差万別なのでしょうが、一例として「欲求と切望」などがあるでしょうか。

このように同じような意味の言葉を重ねるというのは、今では新聞や雑誌記事など一般の読み物ではほとんど見られませんが、法文書ではうんざりするほど出てきます。法文書では書かれていることが絶対であるため、契約後に「これについて言及はなかった」と不備を突かれて違反されることがないように、とかくあらゆる場合を書き並べるというのが実用の面から必須になるのです。

言葉の成り立ちとそれにからむ文法規則までを考えると、この原文に出てきた「improving」の意味は(直感的ではないとはいえ)かなり絞り込めるものです。見慣れない例とは言え、根本の規則に照らせば結論を出せるということは、ゆくゆく機械翻訳にもこのぐらいの訳が可能なのではと個人的には思います。

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