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「言わずもがな」の英訳は2通り、バリエーション別の誤訳に注意!

今回の記事で扱う表現は「言わずもがな」。

書き言葉寄りの少し古めかしい表現で、しかも意味がちょっと込み入っているという機械翻訳泣かせの表現ですが、実際に訳させてみると、Google翻訳は思いがけない健闘を見せてくれました。

「言わずもがな」には2種類の意味があります。

ひとつは、「わざわざ言う必要がない、言わなくてもわかる当然のことである」という意味。もうひとつは、「言わない方がいい」という意味です。

英語では、前者は「It goes without saying~(~は言うまでもなくそうなることである)」、後者は「It should be left unsaid that~(~であることは語らずにおく方がいい)」という表現が使えます。

1文目

原文: 改めて言わずもがなのことを口に出しているので当然、誰も返事をしない。

訳文: Naturally, nobody replies, as I will mention another thing as a matter of fact.

出典: 有沢まみず『いぬかみっ!09』より引用

「another thing as a matter of fact」という文節に「改めて言わずもがなのこと」という箇所までの意味が含められています。「another thing(別のこと、もう一つ付け加えて)」という語で「改めて」というニュアンスが表現されています。

「言わずもがな」に相当する文節は「as a matter of fact」だと思われます。

とはいえこの表現は、「実のところ、本当のことを言えば」というニュアンス。意外な事実を告げるときの言い方であり、「言わずもがな」の訳語としてはずれているように思えます。
「fact(事実)」という点から、言わずもがな=改めて説明する必要はない=周知の事実である、というような推論を踏んで「as a matter of fact」の訳語に至ったのでしょうか。

2文目

原文: 言わずもがなのことを言って連中の失笑を買うのはいやだったのだ。

訳文: I did not dislike buying a lost smile of their friends by saying so to speak.

出典: 富野由悠季『Zガンダム 星を継ぐ者』より引用

ここで「言わずもがな」に対応する英語は「so to speak」でしょう。

「so to speak」は「いわば、言ってみれば」というような意味。どこからどう訳されたのか、本当に「言わずもがな」を認識して訳したのかも少し疑わしいほど、原文から離れてしまった誤訳です。

「lost smile」は「失笑」、「言わずもがなのことを言って」が「by saying so to speak」でしょうか。「連中」は「their」でよかったはずなのに、なぜか「their friend」と「連中の友達」になっています。

3文目

原文: こうした心が古い伝統にしばられたものであることは言わずもがなであろうが、それ故にこそ、そこに精神の貴族主義が生れるのである。

訳文: It is undeniable that these minds are bounded by old traditions, but that is why there arises spiritual aristocracy there.

出典: 風巻景次郎『中世の文学伝統』

全体の構造をきちんと把握した、かなりきれいな訳文になっています。

こうした心が古い伝統にしばられたものであることは(that these minds are bounded by old traditions)言わずもがなであろう(It is undeniable)が、それ故にこそ(but that is why)、そこに精神の貴族主義が生れるのである(there arises spiritual aristocracy there)と、文節をそれぞれ的確な箇所で切り分けており、それぞれの内容も問題なく読めるレベルの訳文ができています。

「言わずもがな」に相当する訳語は「it is undeniable」。これは「否定のしようがない」という意味です。「言わずもがな」という言葉がもつ「言うまでもない当然のこと」というニュアンスを強調した訳語と考えれば、なかなか当を得た訳語ではないでしょうか。

4文目

原文: キプロス島でジヴァニアは、酒の1つとして楽しまれてきたのは言わずもがなである。なお、ジヴァニアを飲む際、いわゆるつまみものとして、乾燥させたナッツ類や、地元の料理を用意する場合もある。

訳文: In Cyprus Island, Givenia has been enjoyed as a sake as a matter of course. In addition, when you drink Givenia, you may also prepare dried nuts and local dishes as what is called a picker.

「言わずもがな」が「as a matter of course」と訳されています。このフレーズは「当然のこととして」という意味なので、前述の文章と同様に「当然のもの」という側面を強調した上での表現。

5文目

原文: なお、靴を履く習慣のない文化圏においては、靴べらが無用の長物となるのは言わずもがなである

訳文: In addition, in cultural areas without the habit of wearing shoes, it is inevitable that the shoehorn becomes an unnecessary long shirt.

「it is inevitable」が「言わずもがな」の訳語だと思われる。「inevitable」とは「不可避のこと」あるいは転じて「当然のこととして」を表す。「it is inevitable that~」で、「~となるのは当然のこと」という表現になるのです。

ここでも「当然ながら」という意味を主軸にして「言わずもがな」が表現されています。

余談ながら、「無用の長物」が「unnecessary long shirt(無用の長シャツ)」となっているコミカルな誤訳があります。

6文目

原文: それに、どうやら、相手の恥らいが、ぼくにも感染しはじめているらしかった。 つい、いたたまらぬ気持で、言わずもがなの弁明をしはじめていたものだ。

訳文: Besides, apparently, the other person’s shame seems to be infecting me. It was what I was beginning to express as much as possible with an unbearable feeling.

出典: 安部公房『他人の顔』より引用

「express as much as possible」が「言わずもがなの弁明」に相当する訳語でしょう。意味は「できるだけ多く表明する」というようなもので、本来表現するべき「言わなくてもわかるほど当たり前の」という意味は読み取れません。

これらの文章の訳語からは、ふたつの傾向が見えてきます。

ひとつは、「言わずもがなの〇〇」という表現は支離滅裂な英訳文になりがちなこと。もうひとつは、「~は言わずもがなである」形で使われている場合、「~は当然のことである」という旨の英語表現で訳される場合が多いということです。

ですので、「言わずもがなのこと」と言いたいときは「言う必要のないこと」というように平易な表現に直しておけば誤訳が少なくなるでしょう。

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