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Google翻訳を使った「辞める」の英訳は、シンプルにして中々正確

猛暑続きの夏の折、東京では気温が40度を記録した中で仕事なんてやってられない! というわけで、今回の記事で扱うのは「辞める」という表現。

辞めようのない役割に縛られたGoogle翻訳に、仕事を辞める人間の気持ちはわかるものなのか? そのへんの心境はともかくも、なかなかそつのない訳を見せてくれました。

日本語で「辞める」という場合、たいていは「仕事を辞める・辞職する」という意味で使われます。

仕事を辞める」と英語で言うときは「quit job(仕事を辞める)」、「quit the company(会社を辞める)」、また「leave company(会社を去る)」という表現が使われます。

このほかには「resign」や「retire」なども使われますが、これらは微妙なニュアンスの違いに注意。

「resign」は「辞表を提出して会社を辞任する」という意味までを含んだ語であり、もっぱら同じ会社内で誰かが辞職した、という場合に使われます。「retire」もまた「辞める」ですが、これはただ辞職するのでなく、定年退職をするというニュアンス。使いどころは限られますが、うまいタイミングで使えればちょっと格好いいかも?

結論から言えば、これほどのバリエーションを出すには工夫がいるものの、基本の「quit」という英訳は、Google翻訳なら難なくこなせてしまいます。

他にどこか注意するべき点はあるでしょうか? 以下から例文と英訳文を見ていきましょう。

文章1

原文: そうでなければ、何の当てもないのに会社を辞めたりするはずがない

訳文: Otherwise, it can not quit the company without any honor.

出典: 車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』より引用

「会社を辞める」がちゃんと「Quit the company」となっているのを確認して下さい。記事冒頭の説明に即せば、「辞める」の訳はこれで及第点。ただし全体としてはよろしくない訳です

まず主語が「it」になっている点に注意。会社を辞めると言う場合、動作の主体はかならず人間なので、「he」か「she」であるべきです。

原文で辞めたのが誰なのか言及されてない以上、どちらであるかは判断できないという問題は確かにあります。しかしそれならば、「Otherwise there hardly be any reason to quit(そうでなければ、辞めるべき理由などそうはないはずだ)」や「otherwise, no one would quite a company(そうでなければ、誰も会社を辞めたりしないはずだ)」というように、人称に関係がない「There is」や「no one would~」のような文章に書き換えるぐらいの工夫がほしいところ。

また、「当て」の訳語が「honor(名誉)」になっていますが、これでは意味が通りません。解釈が難しいところですが、「先の見通し」というニュアンスで「plan」のような語を当てるのがいいかもしれません。

文章2

原文: あたしはそこまでは望んでいなかったので、そこを辞めることにした

訳文: I did not want that so far, so I decided to quit.

出典: 内田春菊『あたしが海に還るまで』より引用

この文章ではただ「辞める」だけが使われていますが、Google翻訳はちゃんと「quit」と訳してくれています。「company」や「job」という単語がなくても「quit」だけで仕事を辞めたのだと察せるので、この訳も十分な出来でしょう。

文の前半の「did not want that so far」は、「そこまでは望んでいなかった」という部分に対応しています。ここの「far」は「遠い」ではなく、程度を表す抽象的な意味でつかわれています

もう少し表現を解きほぐすと、この英訳文は「そこまでの程度を望まなかった」という意味。「そこまで」を一定の範囲だと捉えたうえで、「this」や「that」などではなく「so far」を選んだのは、なかなか見事なやり方です。

文章3

原文:中学の頃から声優に憧れ、高校時代は演劇部に所属するもすぐに辞める。

訳文: I longed for a voice actor since I was a junior high school student, while I belong to the theater department at high school, I quit soon.

「辞める」がちゃんと「quit」になっているのはいいのですが、この文がまずいのは時制の扱いです

この文章には4つの動詞があります。全て同一の文章内にあるのに、「中学の頃(since I was a junior high school student)」、「声優に憧れ(longed for a voice actor)」は過去形、「所属(belong to)」、「辞める(quit)」は現在形として訳されており、時制に混乱が生じています

原文にある「~の頃」「~時代」という言葉をヒントにすれば、これらは全て過去の話をしているもので、したがって過去形で統一されるべきだとわかります

これは文脈から時制を判断しきれないGoogle翻訳の手落ちでしょう。日本語で過去のことを書くときに「~した」ではなく「~する」という形で書くことは間違いではありませんが、こう表記してしまうと過去形であることが明示的に示されないため、Google翻訳は表記に忠実に現在形として訳してしまうのです。

文章4

原文: ちょうど僕は、ある弱小出版社を辞めて、フリーになったばかりでした。

訳文: Just as I quit a weak publisher, I just got free.

出典: 篠田節子『死神』より引用

「辞める」がちゃんと「quit」と訳されているのはこれまで通り。ただし、この文章も一つ前のものと同様、時制が混乱した訳文になっています

「quit」が現在形、「フリーになった」の訳語である「got free」が過去形で訳されています。文意としては「出版社を辞めたちょうどその時、フリーになった」というもの。フリーになったのが過去の話であるなら、タイミングが同じはずの「辞める」という事象が現在形であるはずはありません
原因は先述の通り、文脈を読み取れないという弱点によるものです。こうした誤訳を防ぐには、過去のことは「~した」と、明らかに過去形だとわかるように書くのが無難でしょう

また、原文ではフリーランスの意味でフリーという言葉が使われていますが、これだと「free(自由・無料)」と英訳されてしまいます。フリーランスに対応する語は「freelance」であり、この言葉を出したい場合は略せず「フリーランス」と表記する必要があります

ここまで見てきたとおり、「辞める」という日本語にはほぼ必ず「quit」という単語を対応させた訳文が作られます。「辞職する」という意味で使う限り、特に訳させる上で気をつけるべき点はありません。

「resign」や「retire」などのバリエーションを出したい場合は、それぞれ「辞任する」「リタイヤする」など、入力文を少し変えてやるといいでしょう。

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