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SF小説の大家があばく、機械翻訳の弱点

日本語は主語を省略する場合が多い言葉です。日本人が日常の日本語を読むぶんには問題ないですが、英語に訳すとなるとひと苦労。これは誰の行動か、誰の発言か、省略された主語を補って訳文を書く必要があります。

英語から日本語にする場合は違うのかと問われれば、そうとも言い切れません。SF作家の大家アーサー・C・クラークが残した言葉の訳文からは、省略表現という機械翻訳の弱点が見えてきます。

今回の原文はこちら

Any teacher that can be replaced by a machine should be!

これは、SF作家のアーサー・C・クラークの作品『Electronic Tutors』の一節です。アーサー・C・クラークといえば20世紀を代表するSF作家の一人。第2次世界大戦中はレーダー技術者として従軍し、大学では物理学と数学を専攻したというバックグラウンドを活かして科学的リアリティーに富んだ作品を多く世に送り出しました。

地球という枠を超えた宇宙と地球人との関係性を描いた『幼年期の終わり』は彼の代表作で、今でもSFの最高傑作に推す声もあるほど。また、彼が原作に携わった映画『2001年宇宙の旅』は世界的な傑作として、公開から半世紀ほどになる現在でも高く評価されています。

そんなSF映画の大家のおことば。科学と技術の申し子である機械翻訳はどう訳すのか? Google翻訳とエキサイト翻訳の訳文を見てみましょう。

Google翻訳訳文

機械で置き換えることができる教師は誰でも構いません。

エキサイト翻訳訳文

マシンのため取り替えられうるどのような先生でもであるはずである!

Replaced by

まず注目したのは、「マシンのため取り替えられうる」というエキサイト翻訳の訳文。原文でいう「can be replaced by machine」に相当する部分です。これは受動態の表現になっており、replace(置き換える)という動作を行う主体は「machine」すなわち機械というわけで、能動態の文章に書き換えると「機械が(教師に)取って代わる」となります。

エキサイト翻訳の表現はこの点でわかりづらいものとなっています。私見ですが、これを読んだ印象としては、ここで出てきた「のため」は「家族のため働く」、「健康のためによい」のように、何かにとって利益になること、あるいは原因や理由を表すように思えてなりません。

これを踏まえるとエキサイト翻訳の訳文は、何か支配者然として君臨するマシンが存在し、そのマシンにとって都合がいいという理由で教師が何か別のものに取り替えられる、というように読めてしまいます。原文の意味合いとしては、機械が教師の役目を果たすようになって教師がいらなくなるというもので、このようにややこしい関係は存在しません。さらにエキサイト翻訳の訳文では、先生が何に取り替えられるのかがわかりません。

英語の受動態の表現を和訳する場合、辞書や教科書に載っているごく基本的な形は「~により○○された」となります。エキサイト翻訳はこの基本に沿って訳せば少なくとも意味がこじれることはなかっただろうに、なぜか「ために」とひねってしまった。なんの規則に沿ってできた訳語かはわかりませんが、どうも不可解な言葉のチョイスだと思います。

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